大都市川崎に残った自然



かわきた第225号(2010年3月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
大都市川崎に残った自然

かわさき自然調査団 岩田臣生

 生田緑地の自然を保全する活動を始めて6年が経とうとしています。どうして続いているのか自分でも不思議です。全国的に見れば、そんなに魅力的な自然があるとは、とても思えません。大都市の市街地の中に辛うじて残った緑の孤島です。全身泥まみれになるようなボランティア活動なんて流行らないと思います。ただ、狭い地域に拘って活動していると、広い地域の視点でのみ見ていたのでは気がつかなかったものが見えてくるものです。そんな難しいことを言わなくても、珍しい生き物、美しい動植物に出会うことも結構あって、ワクワクドキドキさせられることがあります。都市化の波は全国に広がっています。都市化されつくしたと思われている川崎にも質の高い自然が残っている。そういうことが、川崎の都市のアメニティになると信じています。
 生田緑地は環境省のモニタリングサイト1000里地調査の一般サイトに登録され、かわさき自然調査団がボランティアによる調査を開始しました。その中の哺乳類調査では、センサーカメラを設置して哺乳類の写真撮影による調査を実施しています。昨夏、このカメラがミゾゴイをとらえました。今までも数回の目撃事例はありましたが確証がありませんでした。
 ミゾゴイは、中国南東部及び台湾、フィリピン、本州以南の日本などに生息分布する野鳥で、夏季に日本で繁殖(夏鳥)し、冬季になるとフィリピンなどへ南下し越冬(九州や南西諸島で越冬する個体もいる)すると図鑑などに書かれています。
 環境省RLでは絶滅危惧TB類(EN)、神奈川県RLでは繁殖期絶滅危惧T類に指定されています。但し、更に、ミゾゴイは国内のこうした指定に止まらず国際自然保護連合のRLにも絶滅危惧TB類として指定されている国際的な絶滅危惧種なのです。
 繁殖地が日本の里山に限られていますので、日本の繁殖地である里山が無くなると世界から消えていくことになる野鳥です。その日本では現在、全国から里山環境が減少していますから、ミゾゴイは里山環境の保全を考えている人たちの間では非常に注目されている野鳥です。
 ところが、なかなか人目に触れることの少ない野鳥で、その生態はまだ明らかではありません。一説では世界に1000羽以下しかいないとも言われています。 繁殖地は日本の在来の自然を代表するような雨の多い湿った暗い樹林で、その近くの畑地や湿地でミミズやサワガニなどを捕食しているらしいのです。ある程度広い面積が保全されていて、在来の谷戸環境が残っていなければなりません。
 生田緑地でミゾゴイが撮影されたということは、関係者の間でも生田緑地の自然の質の高さを更めて認識させられることとなりました。かつての多摩丘陵の谷戸の自然が、大都市川崎の市街地の中に残っているということは驚くべきことです。
 この生田緑地の自然を保全することは、直接的に保全活動を行っている私たちだけでできるものではなく、ミゾゴイが飛来するような自然が残っている生田緑地を生田緑地のあるべき姿として応援してくれる大勢の生田緑地ファンがいて成立することです。大勢の市民が生き物の生息できる空間(ビオトープ)の存在を認めて、その環境を保全したほうがいいと思ってくれることが必要です。生田緑地に経済的価値を求めるのではなく、存在そのものに価値を見いだしてくれるようになると、生田緑地の自然を次世代に継承できるばかりでなく、それを実現させた情況も誇るべき地域の文化として継承されるでしょう。

この文章は、かわきた第225号 2010年3月発行に掲載されたものです。
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