スジグロボタル



かわきた第227号(2010年7月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
生田緑地のホタル、スジグロボタル

かわさき自然調査団 岩田臣生

生田緑地の谷戸の水辺には生田緑地の自然を象徴するような甲虫が数種類見られます。その中でも生田緑地を代表する生物と言えるスジグロボタルを紹介します。
幼虫が水の中で生活し成虫が陸上で生活しているホタルを水生ボタルといい、幼虫期も陸上で生活しているホタルを陸生ボタルといいますが、このスジグロボタルは半水生ホタルと呼ばれて、幼虫は絶えず水がかかるような陸上で生活しています。
生田緑地で今までに確認されたホタルは7種で、そのうち水生ボタルはゲンジボタルとヘイケボタルの2種、陸生ボタルはムネクリイロボタル、オバボタル、カタモンミナミボタル、クロマドボタルの4種、半水生ボタルのスジグロボタルが記録されています。
このうちヘイケボタルは、神奈川県RLでは準絶滅危惧に指定され、生田緑地では既に絶滅しました。
ゲンジボタルはホタルの国で出会うことができます。昔のようなホタル狩りはできませんが、優雅な飛翔発光を楽しむことでできます。
陸生ボタルについては、最近の調査がありませんが、ムネクリイロボタルは毎年、成虫に出会っています。体長6〜7mmの昼間活動するホタルです。
スジグロボタルは、氷河期の生き残りとも言われ、寒冷地の水辺に棲息するホタル科の昆虫です。大都市の公園に普通に棲息しているような生物ではありません。神奈川県RLでは準絶滅危惧に指定されています。生田緑地の中の看板にも光らないホタルとして紹介されています。
谷戸の水辺は市街地の気温に比べれば夏でも2〜3度低いと思いますが、寒冷地の気候に匹敵するようなものではありません。
体長8mm、鞘翅が紅色のホタルでベニボタルの仲間として扱われていたこともあります。一生を通じて極めて狭い範囲で生活していること、その一生は2年ぐらいだということが分かっています。
こんな生物が川崎市多摩区の生田緑地に辛うじて棲息しています。ここに存在していること自体が不思議なことだと専門家も言います。生田緑地の自然の特異性を示す生物の一つです。
20〜30年前は生田緑地では多産していたと研究論文等に記されていますが、現在では非常に少なくなっており、1年に1匹の成虫に出会えたら嬉しくなる、そんな存在のホタルです。私たちは、スジグロボタルの生息環境を再生、保全し、昔のように沢山の個体が、生田緑地の谷戸の水辺に見られるようにしたいと考えて、活動しています。

この文章は、かわきた第227号 2010年7月発行に掲載されたものです。
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