生田緑地で増えているクロコノマチョウ



かわきた第229号(2010年11月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
生田緑地で増えているクロコノマチョウ

かわさき自然調査団 岩田臣生

 今年の夏は殊の外暑く、生田緑地の谷戸の水流が何本も涸れてしまいました。来年の6月にゲンジボタルの飛翔発光が見られるだろうかと気になっています。 在来の生物は様々にダメージを受けていたと推察していますが、そんな中で、謂わば、大発生をしていた生物もいました。その一つが今回ご紹介するチョウです。
 名前をクロコノマチョウというタテハチョウ科のチョウです。元々、南の方に棲息していたチョウで、川崎で見られるようになったのは、まだ10年程前からのことです。
 クロコノマチョウの食草はジュズダマなどのイネ科植物です。生田緑地の田圃の周辺に生えていたジュズダマは毎年、クロコノマチョウの幼虫が見られるようになり、木道にはカメラを構えた来園者が夢中でシャッターを押している光景がよく見られました。
 蝶の幼虫といったらイモムシですね。イモムシの写真を撮りたがる人がいるのだろうかと思われることと思いますが、その終齢に近づいた幼虫の体は、内部から光を発しているかと思えてしまうような鮮やかな黄緑色で、頭部は黒いマスクを被っているように見えます。稲刈りを前に、田圃の周辺の草刈りをしたのですが、一休みしてから草地を眺めたら、遠くからでも、刈られた草の上を何匹もの幼虫が歩いているのが観察できました。 南方の暖かい地方のチョウですから、今年の暑さは天の恵みだったのでしょう。生田緑地の田圃の周辺に生えていたジュズダマの殆ど全ての葉を食べ尽くしてしまう数のクロコノマチョウが発生してしまいました。初めて、田圃の周囲でクロコノマチョウの幼虫を見つけた年は、クロコノマチョウのためにジュズダマは草刈りの時も刈らずにおいたものでしたが、今年は余りの多さに乱暴に扱うようになっていました。クロコノマチョウばかりが増えてしまう状態は望ましいことではありません。
 さて、チョウは完全変態をする昆虫で、幼虫から蛹(さなぎ)になってから成虫になります。この蛹も、また幼虫と同じように綺麗な黄緑色をしています。蛹になる直前、幼虫は体を折り曲げて、葉からぶら下がる形で動かなくなります。この状態を前蛹(ぜんよう)といいます。この状態も実に美しい色と興味深い形をしています。
 こんなに綺麗な蛹から羽化して出てきた成虫はさぞ美しいだろうと知らない人は思うのですが、お世辞にも美しいとは言えないチョウになっています。幼虫と成虫が結びつきません。蛾(が)ではないかと言った人もいます。草陰にいることが多く、草地を歩いていると急に飛び出して驚かされますが、初めて出会った時は気持ち悪くさえ感じました。醜いアヒルの子は美しい白鳥になるのですが、クロコノマチョウは子供のころは美しく、可愛いのに、大人になると醜いチョウになるのです。
 最近の生田緑地では在来のチョウよりも南方系のツマグロヒョウモン、ムラサキツバメ、ナガサキアゲハ、クロコノマチョウのような南方系のチョウが目立つようになっています。ただ、これらは人為的に移動されたものではなく、自力で分布を広げているので、これもまた自然なのですが、今の子供たちが、これらを在来種だと思い込んでしまうことのないように願うばかりです。

この文章は、かわきた第229号 2010年11月発行に掲載されたものです。
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