雑木林の皆伐更新



かわきた第230号(2011年1月発行)掲載 川崎の自然をみつめて
雑木林の皆伐更新

かわさき自然調査団 岩田臣生

 生田緑地でも実験的に皆伐更新を行うことを決め、市民が参加する市民部会として毎木調査を行い、樹木マップを作成し、近隣の萌芽更新事例を見学し、皆伐区域を何度も検討し、2010年11月に概ね20m×20mの区域400uの皆伐に着手しました。
 川崎市域の雑木林はクヌギやコナラを主な構成種としていますが、どこでも老齢化が進んで大木の樹林になっているようです。これは公園緑地としてみた場合、魅力的な景観づくりに貢献していると思われます。雑木林に一歩足を踏み入れると大きな樹々がつくる空間に包まれることになり、山奥に来たような錯覚を覚えさせてくれるという効果があります。
 またタマムシのように老木を生息環境としている生物も多いのですが、雑木林にはウラナミアカシジミのように若いクヌギを生息環境としている生物もいます。生物多様性保全の一つの局面である現存する生物種が消えることを防ぐという意味から、若い雑木林も存在する状態を維持することが重要な雑木林管理の目的の一つになります。 都市部では個々の樹林が孤立していますから、個々の樹林の中に多様な環境を持たせることが求められますが小規模の樹林では困難です。生田緑地では指定区域180haという規模がありますので、ある程度多様な環境を残すことが可能です。
 若い雑木林といってもクヌギ、コナラにこだわるのは薪炭林として利用してきた里山文化、地域の伝統的文化が培ってきた雑木林の樹種構成を残すという軸を入れたいと考えているからです。在来の生物相はその雑木林を生息環境としていたはずだからです。樹種は何でもいいというのであれば、皆伐後放置しておけばいいのです。しかし、その場合は萌芽しやすい樹木や実生からの発芽・成長の速い樹木が先に大きくなって、コナラが負けて消えてしまうことになります。皆伐更新地の事例の中に若い林が形成されて一見成功しているようにみえる林が、よく見るとコナラの無い林になっていることがあります。生田緑地の萌芽更新地でも、クヌギ、コナラ以外の種が大木になっていました。
 さて直径が30cmのコナラの萌芽更新は困難というのが専門家の意見です。ですから萌芽更新だけを考えているのではなく、同時に実生を育てることも、また苗木畑で育てた苗を移植することも考えています。
 しかしいずれにしても、コナラ・クヌギ林として更新するためには、萌芽や実生を保護する活動が必要です。業者が実際の管理を行っているところでは作業効率が優占されて若いだけの林になっている事例が多く見られます。コナラ・クヌギの若い林をつくることを楽しみとして活動する植生管理ボランティアが求められることになります。 生田緑地では、この活動を行うボランティアを里山倶楽部会員として募集することにしました。
 自分が管理して育てる区画等を決めて、月1回程度、その範囲の切株からの萌芽や実生を保護するための下草刈りや成長記録をつける活動を考えています。この活動をより楽しくする工夫をして、身近な自然を家族で満喫してもらえるような仕組みにしたいと構想しています。
 例えば草刈りにしても、どんな植物が生えているのかを調べて、どんな植物が咲くような場所にしようというイメージを持って下草刈りを楽しむボランティア活動にしなければならないでしょう。そのような活動に多くの市民が気軽に参加できる仕組みをつくらなければならないと感じています。

この文章は、かわきた第230号 2011年1月発行に掲載されたものです。
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