生田緑地植生管理協議会市民部会
里山倶楽部
萌芽更新の勉強会 2


日時 2010/10/26(火) 9:00〜11:45 曇
場所 都立小宮公園(八王子市)
ガイド 倉本 宣(明治大学教授・生田緑地植生管理協議会会長)
参加 小泉恵佑、市民部会事務局 岩田臣生、岩田芳美



お忙しい倉本先生にお願いして都立小宮公園の萌芽更新地を案内して戴いた。

東京都の基本的な手法である0.2ha単位で毎年皆伐更新をやっている公園はここだけだというので、10/3の雑木林勉強会では小宮公園の見学を行った。
 
伐採した区画には伐採年度を示す黄色の立て札が立っている。
その年度によってうまくいっている区画とうまくいっていない区画がある。
平成21年度伐採の区画では、鳥が巣を作れるように高い位置で伐採してほしいというボランティアの要望に応じて高い位置で伐採した。 この高い位置で伐採した伐根が比較的良く蘖(ひこばえ)が出ていたので、今日は、それを記録して帰りたい。



ここでは発生材はチップにして園路に敷いている。

ここは都市計画的に公園になったというよりは、畔上さん*たちが努力して公園にしたところだと聞いている。

平成元年度萌芽更新区画
伐採区画ごとに、この様な立札が立っている。 ここは初めから皆伐更新を見せるという考え方をしているので、こういう札が立っている。
でも、ここは成功していないようだ。
21年経った雑木林としては良くない。
コナラは生き残っていない?


平成17年度萌芽更新区画
ここは、見かけはいっぱい木が生えているが、コナラは枯れている。コナラ以外の樹木がたくさん生えている。
管理を業者に委託して植生管理を行った場合に、このような状態が起こり易い。 コナラを刈ってしまって、それ以外の種子から出てきたものを大事に残してしまった状態だ。
ここが、そうだったかどうかは分からない。コナラが出て来なかったのかも知れない。
ガマズミが一列に並んで生えている。これは植えたもののようだ。
樹木を植えること自体は悪いことではない。
何を植えるかということ、本来そこにあるべきものかどうかという判断ができていればいい。

平成3年に丘陵地公園の雑木林がどれだけ成長して林の形になっているかを調査した。 高木層、亜高木層、低木層、草本層の葉の量を計測する調査で、林では高木層の葉が多くて、草原では草本層に葉が多い。 その結果では、林の形になるには、伐採後 7年ぐらいかかっていた。
丘陵地公園の各区画の葉量の調査をしていけば、何年経ったら林になっているのかが分かる。
このことは、雑木林の植生管理という本に書いた。

こういう所にコナラの苗を補植しないと雑木林が回復してくるようにはならないと思う。

(都立公園でも)ヤマザクラを伐ってトラブルになることが何回もあって、ヤマザクラを伐らずに残しているところがある。 ここでは余り無かった。

平成16年度萌芽更新区画
雑木林を若返らせないといけないという造園学会の調査報告が活かせていない。
計画としては間違っていないと思うが、それを実施することができていない。
実施できなかった時に、計画や作業の流れにフィードバックして改善するということがなくて、とりあえずガマズミを植えておけといった対応になっている。


平成14年度萌芽更新区画
ある程度経つとこういう林になる。
全部が同じように成長するわけではないので、早く林になるところと、なかなかならない所がある。
この程度になっていれば、皆伐更新をやりましたと言える。さっきの所はちゃんとやりましたとは言えないだろうと思う。
皆伐更新の技術は、技術として安定していない。どの造園業者がやってもちゃんとできる技術にはなっていない。
このぐらいになれば、林も明るいしいいのではないか。
この程度まで成長したら、また伐らなければ駄目だ。でもそういう決心はなかなかできない。 でも、伐採するところも余り残っていない。ここは30年で一巡りと考えているらしいので、もう少し大きくなったら伐ることになるのだろう。
ここは伐ったら萌芽してくるだろうけれども、さっきの場所は萌芽してこないだろう。
良くできた区画の施工管理を担当した職員にどうやったのかを聞いてみるといいのだと思う。

補植しなくてもいいと思われる木がある。管理者としては、皆伐した時は植えたくなるのかも知れない。 過密に植え過ぎてしまうことも失敗の要因としてあるのではないか。

株立ち整理は5年目に行っている。 この株立ち整理は業者の作業としては向いていない。
検査員に、これは業者には向いていないよと言われた。 検査員は嘱託員にやってもらえと言ったのだが、嘱託員は効率的なことが好きなので、市民がやった方がいい。

コナラは奥の方だけのようだ。

都庁で働いていた1990年頃は一つの公園に 2千万円ぐらいかけて生物調査をやっていた。 そういう調査がここにもあれば、事前の状態を知ることができるかも知れない。

仕様書には蘖(ひこばえ)の本数を2〜3本にするようにとあったと思う。 でも狭山丘陵では1本にしている。同じ東京都の中でも、作業の仕方は異なる。

奥の方の昭和62年の区画には直径20cmぐらいのコナラが生えていて、切株は見当たらない。 手前(平成14年)の区画には殆どコナラが見当たらない。
切株が直径20cmぐらいののものが1本あった。それ以外のコナラは補植したもののようだ。
若い林としては良い感じに見えるが、これでは雑木林を更新したとは言えない。 ただ、これは雑木林の木を燃料に使っていた時の評価なので、これからの時代はどのように評価するかを皆で考えなければいけない。
クヌギ、コナラなどの燃料として有用な樹種が生えている林がいいのだとすると埋土種子から発芽し易い樹種だけが残っていくという状態は良くない。 今は燃料として使っている訳ではないので、どんな評価軸で考えるかを整理した方がいい。


平成19年度萌芽更新区画

直径56cmという大きい萌芽更新株があった。 ただ、根元ではなくて、幹から萌芽していた。

平成19年より前に萌芽更新されたような株があった。

ここでは、萌芽更新することが雑木林の管理の仕方だということになっているので伐採したからといってクレームがつくことはない。 そのための広報に努めている。
ここは、雑木林の植物を見ることが目的になっている公園なので更新しないと植物が見られない。

平成9年度萌芽更新区画


林間の木道を通って東側のプロックに移動した。

倉本先生が16年前に立てた看板だ。

昔は、農家から落葉を取る権利を譲り受けた業者が落葉を取りにきていた。
非常に良い感じの林間の木道が整備されている。柵は無い。
八王子駅から歩いて20分だが人は少ない。
道ごとに野鳥の名前が付けられている。
野鳥は道単位では棲み分けない。

平成3年度萌芽更新区画
地上30cmぐらいの位置で伐採している。19年ということで幹も太くなっているため、30cmが高いとは感じさせないし、切株も殆ど消えている。
元の切株が消えて幹の根元がお椀状になっている株があった。
一番大きく成長している株を見ると、幹の胸高周長が65cm(直径20cm)あった。
アズマネザサが低く、他の植物の方が大きく育っている。


平成1年度萌芽更新区画
ここではカントリーヘッジという言葉は使っていない。 「枝などはシガラを組みなさい」という仕様だと、この様になる。

平成21年度萌芽更新区画
草刈りなどしない方が良かった。
草刈りで必要なものが刈られてしまうかも知れない。
野鳥のボランティアの人たちに言われて、やたら高い位置で伐採している。
樹木の直径、伐採位置、萌芽の状態をざっと調べてみた。結果は次表の通り。

伐採と萌芽の状態
番号切株の直径 伐採位置 萌芽の状態
(イ)24cm 55cm 萌芽多数あるが、根元からの萌芽はなし
(ロ)○25cm 55cm 2本の株立ち、萌芽多数、根元の萌芽あり
(ハ)○28cm 70cm 切り口と根元の両方から萌芽
(ニ)○32cm 80cm 根元から萌芽多数
(ホ)○33cm 100cm 切り口と根元の両方から萌芽多数
(ヘ)34cm 60cm 切り口に萌芽多数
(ト)○36cm 55cm 少ないが根元付近から萌芽、葉が少し枯れている
(チ)38cm 40cm 萌芽なし
(リ)40cm 50cm 萌芽なし
(ヌ)40cm 56cm 萌芽なし
(ル)○40cm 90cm 萌芽多数
(ヲ)40cm 100cm 萌芽多数あるが、根元の萌芽はなし
(ワ)○40cm 106cm 萌芽多数
(カ)○40cm 110cm 上の方の萌芽多数、根元の萌芽あり
(ヨ)40cm 120cm 幹途中からの萌芽のみ
(タ)42cm 70cm 伐採位置付近からのみ萌芽
(レ)42cm 70cm 萌芽なし
(ソ)47cm 110cm 萌芽は枯れている。
(ツ)48cm 120cm 切株の途中から萌芽(根元、切り口にはなし)
(ネ)50cm 127cm 萌芽なし
(ナ)計測不可 60cm 萌芽は無数にあるが、根元の萌芽はなし


(ハ) (ナ) (ロ)
コナラが1本残してあった。一番太いコナラというわけではない。


昭和62年度萌芽更新区画
23年経って林になっている。
最も大きそうなコナラの直径は23cm位です。
下草はアズマネザサではなく、ココメウツギが一面に密生している。


平成15年度萌芽更新区画
ヤマザクラの萌芽更新が行われていた。


センターへの帰り道、こなら平辺りで、小宮公園管理所長に出会ったので、挨拶した。


最後に、倉本先生には、お忙しい折、私たちのために小宮公園まで出てきて、いろいろと教えて戴きました。 真に有り難く、謹んで御礼申し上げます。


* 畔上 能力(あぜがみ ちから)
 1933年八王子市生まれ。東京経済大学卒業。八王子自然友の会会長。東京都公園審議会委員、東京都自然環境保全審議会委員を務め、現在、多摩市文化財保護審議会委員。(社)日本植物友の会理事。公益信託遠藤記念三多摩自然環境保全基金運営委員長。著書として、「日本の野草」、「日本の樹木」、「野に咲く花」、「山に咲く花」、「春の花」、「夏の花」、「秋の花」(以上共著で、山と渓谷社)、「野草ウォッチング」(日本交通公社)、「ザ高尾U、キノコの誘い」(のんぶる社)、「野草見分けのポイント図鑑」・「樹木見分けのポイント図鑑」(講談社)などがあり、そのほか研究報告書多数。

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